――40分前

「あれれ……まさか……」
 待ち合わせ場所にたどり着いたコハクは嫌な予感を感じた。
 20分遅刻しておきながら「嫌な予感」で済ますあたりが図々しいことこの上ないこの遅刻常習者(コハク)なのだが、要するに彼女は待ち合わせたメンバーに置いていかれたのだった。
 今日は大学のゼミ仲間一同、総勢8人で先輩で陶芸家のアトリエへお邪魔して焼肉パーティーをすることになっていて、午後4時に大学駐車場に集合だった。じゃんけんに負けた買出し班がそれより30分早く集合だったことを考えると、コハクの遅刻はかなりヒンシュクかもしれない。
「ゴメン、もしかして置いていかれた?」
 しばらくあたりを探し、友人たちとその車が見当たらないのを確認し、電話をかける。
『んもー! ニャーちゃん寝てたんでしょ。電話しても出ないんだから!』
 電話の向こうで親友ソノサチが目一杯呆れた様子で返事をする。しかし長年の付き合いだけに、ただ置き去りというわけではなかった。
『私たちもう半分走っちゃったから戻らないよ。買出し部隊がまだスーパーにいるはずだから、そっちに電話して合流しておいで』
 ちゃんと置き去りにならないように考えて置いていってくれたらしい。よく出来た親友にコハクは拍手する。
 しかし、買出し部隊への電話で「さよなら焼肉」と呟くことになる。
『エ――ッ!? とっくに先輩んちに着いちゃってるよぉ。予定より早く集合したから4時前に買い物終わっちゃったんだよぉ』
『え、なになに!? ニャーちゃんソノサチに置いてかれたって!?』
『ばっかだなー、後発部隊のくせに遅刻すんなよ〜』
 電話の向こうでは陽気な買出し部隊がコハクの自業自得且つ間抜けな不幸をゲラゲラと笑い飛ばしている。
「は、ハクジョウモノ〜〜!」
 コハクの情けない叫びに明るい笑い声で答え、電話の持ち主リンやその隣で話を聞いていた ルイは料理の下ごしらえに戻っていったようだ。
 笑い声が遠ざかり、変わりに呆れた様子を隠すことなく――それどころか3割増であらわにしたイップがビシッと一言。
『遅刻した自分がわりぃんだろが!』
「……ハイ。まったくもってしてそのとおりでゴザイマス」
 自分がまだ寝こけていた時間に彼らは集合し、買い物を済ませていたのだから、非は完全に自分にある。焼肉とビール。捨てがたいものだが二度と食べられないものでもない。ゼミの飲み会もこれが最後ではないのだ。
 コハクは素直に反省し、今回は焼肉を諦めることにした。
「ちぇー、残念だけどしょーがないよね。みんな、楽しんできてちょーだいよ。ソノサチ達にもそう言っといて」
 溜息ひとつを残し、コハクが電話を切ろうとしたとき、手厳しい一言を放ったばかりのイップが慌てて呼び止めた。
『オイこら! ニャーってば待て待て!! まだ先輩がそっちにいると思うんだよ。連絡してやるから拾ってきてもらえ、な!』
 そんなわけでその7分後、置いてきぼりになっていたコハクは大学最寄のコンビニ駐車場で、近所にきていた焼肉パーティーの会場提供者が運転する回収車に拾ってもらい、現在にいたっている。


 コハクがこの男――ゼミの先輩にあたる北武水玄之介(きたみげんのすけ)の車に乗ることになった経緯はこういうわけだった。

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