琥珀の瞳

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― 琥珀の瞳 2―

 

「白虎……どうしたんです?」
 今日も一日元気に暴れまわっていた朱色の小鳥を寝かしつけていた天心は、前触れもなく突如部屋に現れた白虎の声に閉じていた瞼を開いた。ようやく寝ついた朱雀を起こさないように静かに身を起こし、扉の前に佇む白虎のもとへ歩み寄る。そして、気付く。その儚く不安定な気配に。今にも掻き消えてしまいそうに透き通り揺らめいている白虎の姿に。
「そこは、私の場所じゃなかったの?」
 すっともたげられた白く細い指が指し示すのは天心の寝台。幼い小鳥が天心のぬくもりに包まれて眠るそれ。
「私の、ものでしょう?」
 天心の脇を通り過ぎ、白虎は寝台に膝をつく。そして幸せそうな寝息をたてている朱色を覗き込む。まるで、獲物を狩るような押し殺した気配と鋭い瞳で。
「これは、貴方と私のためのものでしょう?」
 視線は朱雀に固定したまま、白虎は問う。
「何で、ここにこの子が寝ているの?」
 ここは、私の場所。私が貴方と眠るための場所なのに!
 白虎の背がそう言っているように感じた。
「……白虎、そこから降りなさい」
 静かに、天心は明らかに様子のおかしい白虎に言った。しかし、白虎は朱雀から視線をはずさない。そして、膝の隣に着いていた両の手を眠る朱雀に伸ばした。
「白虎、やめなさい」
 だが、白虎は天心の声が届かないようにそのまま両手で朱雀を掴み上げる。
「……綺麗な、色」
 両手に乗せた小鳥を眼前に掲げ、白虎は唇から吐息を漏らすように呟いた。その唇の両端は微かにつり上がっているようだった。
「白虎!」
 低く、強く、もう一度天心が制止を命じると同時に、白虎の口元が彼女の両手の上に近づけられた。
「やめなさい!!」
 言って、天心は自らの失言に気付く。その瞬間、天心の瞳に飛び込んできたのは朱雀に害を成す白虎の姿ではなく、愛しげな表情で眠る小鳥に口付けている彼女の姿だった。
 白虎は優しい笑みを湛えたまま、朱雀をそっと元の場所に寝かせて天心を振り返る。そして、整った細めの眉を八の字に寄せると寝台からふわりと跳んだ。
「どうして……?」
 空気のように軽く、白虎は天心の首に腕を回して呟いた。身体に心地よく纏わる薄布のように軽い白虎。しかしその問は、これ以上ないくらい重いものだった。

『どうして、私を創ったの?』
『どうして、私を拒んだの?』
『どうして、私はこの子たちが邪魔なはずなのに愛しく思ってしまうの?』
『どうして、貴方は私を信じてくれなかったの?』
『どうして…………』

 天心は消えてしまいそうな白虎を抱いて、西へ――白虎に与えた彼女のための場所へ降り立った。
 そこには、はっきりと姿のあるもうひとりの彼女が眠っていた。床の上で眠る白虎の腕は何かを求めるように椅子にもたれかかっている。天心はそれを確認すると、あれから一言も話さずにただ首にすがり付いている今にも掻き消えてしまいそうな白虎に囁いた。
「戻りなさい」と――。
 天心の囁きが風に乗った瞬間、彼の創造主に纏わるようにいた気配が、眠っている白虎に重なるようにして消えていった。
「……何から話せばいいんでしょうか……」
 椅子に代わり、眠る白虎をその胸に抱いて溜息を漏らす。ふと腕の中の白虎を見れば流れる髪が白い顔に張り付いている。涙で頬がぬれていたのだ。
「白虎……」
 そっと顔にかかった髪を撫でる。そして、優しく名を呼び、唇で涙を拭った。
「……天……心……?」
 胸に抱かれている心地よいぬくもりと、優しい声に白虎はゆっくりと目を開ける。天心は何も言わずに微笑んで白銀の瞳に応えると、白虎を抱いたまま立ち上がった。
「少し……昔話をしましょう」



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