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― 琥珀の瞳 1―
今日も、静かに一日が終わる。どうということのない穏やかな一日。
与えられた土地――西で、白虎はぼんやりと一日を省みていた。
見渡すかぎり、一面に広がる色は白。彼女の髪の色、肌の色、瞳の色と同じ、白。土地とともに、その名と能力とともに彼女の創造主によって与えられた色。それがこの一面に広がる白だった。
新たな支柱・玄武が作られたその日から、蒼龍も白虎も、天心と過ごしたあの場所からそれぞれの場所へ巣立たねばならなかった。これからは玄武と、その直後に作られた朱雀というさらに新しい支柱とともに与えられた場所で天心の天を支えていかなくてはいけないのだ――と言い聞かされた。
毎日いつも天心の傍にいられた、抱きしめてもらっていたあの頃が懐かしい。白虎は、気付けば溜息をついてばかりいるようになっていた。
ほんの少し前まで、この世界には三つの色しかなかった。その頃、彼女は蒼が嫌いだった。黄金色と白、この二つの色だけでいいのに。他の色なんていらないのに――密かに、そう思っていた。
それは、至極単純な想い――幼い独占欲。黄金色の創造主に自分だけを見て欲しくて、愛して欲しくて、自分より先に創られていた蒼い少年の存在を疎ましく思っていた。彼に注がれた愛しい創造主の能力が自分へ与えられたそれよりもはるかに大きいだけ、その思いは嫉妬や羨望――はては屈辱にさえ成長した。愛する創造主に悟られていないつもりで。
しかし、今となってはそれは過去の話。
三つの色しかなかったこの世界が五つの色で彩られている今、幼き独占欲から醜い思いを抱くことは白虎にとって自らを深く憂えさせることでしかない。
『いつまでも甘えていては困りますよ』
天心がそう言ったから。
彼の君を困らせるのは、一番辛いことだから。嫌われてしまう――それが一番怖いことだから。そして、気付いてしまった……天心によって気付かされたから。咎められたようにも感じたから。――好意を踏みにじりつづけた愚かな自分を。
「『甘えていては困る』……か」
醜い嫉妬や羨望を見抜かれていたこと、初めての拒絶。思い出すだけで、身体が震えて涙が溢れてくる。
ついこの間まで、一身に受けていたと思っていた彼の君の愛情は、ただ、手のかかる幼子に向けられる注意に他ならなかったのかもしれない。自分に代わり、今、天心の愛情を一身に受けている存在――この世界で一番若い色、その華やかさで他者を惹き付けてやまない朱雀。そして、彼女とほぼ同じころに生まれたというのに既に天心の手を離れ、与えられた北に巣立っている玄武を比べてそう思う。
白虎はその事実に打ちのめされ、溜息と涙をこぼす。
「私は……天心の手を煩わせていただけだったの……?」
(愛されて、いなかった?)
否、自らの問いに首を振って否定する。
(愛されていた……愛されて、いる)
そうでなければ、あんなに優しく抱きしめてもらえるはずがない。
けれど――
「でも……それは私が欲しい愛じゃない」
(蒼龍へ……他のみんなへ向けられるのと同じ……)
こんなにも強い思いが自らの内にあったのかと思う。幼い思いとはわかっていながらも、彼の君の想いを独占したい――他と同じではない、自分だけへの『特別』に満たされたいのだ。しかしどうだろう。今の自分は他の四神たちと同じ愛情さえ向けられてないのではないだろうか? 拒絶されたではないか。
白虎は、天心に拒まれたあの時の想いを引きずっていた。ふとあの時のことを思い出すたびに、足元が崩れ去っていくような錯覚に捕われる。まるで、気がついてしまった事実によって自らの存在が否定され、消去されてしまうのではないかという感覚。
「同じじゃ……イヤなの……ダメなの」
(私が、いらなくなってしまう……。消えてしまう……)
何故かそう思う。恐ろしくて仕方がない。
「天心……」
白い指が空を掴み、色を失った唇からもれる呟きが冷えた空気を白く変えた。力なく開かれたほのかに色づいただけの白銀の瞳は、心に焼き付いている黄金色の創造主を映し、束の間のまどろみと現実からの逃避を白虎に与えた。
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