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「……これって、やっぱりそうよね」
あれから幾月かたって、私の身体は変調をきたしていた。
その理由を確認したいのもあって、私はナオを白虎殿――西の果てにある我が家へと招いた。
「――妊娠?」
「――よね。これって」
互いに不思議極まりない表情をしながらも、私の身体に起こっている変調を言葉にするのならばナオが言ったような単語以外他に考えつくものはなかった。
日に日に大きくなっていく私の腹部は、遂に昨日から、中からなにやらぼこぼこと物体が動いている気配まであらわしはじめていた。
最近はそうでもなかったが、少し前までは気分が悪かった日々が続いていた。
それがつわりであったなら、この腹部にのみおこっているアンバランスな成長と、その膨らんだ腹の中でなにやらうごめく現象に得心が行く。
「「――でも、何で?」」
私たちは、声を合わせて首を傾げてしまった。
確かに幾月か以前に、私たちはそれが起こりうる行為をした。――したけれども、
「「四神(わたしたち)って、子供作れたんだっけ?」」
それはあくまで人間に起こり得る可能性があることであって――四神には??
※※※
「それは、睦みあっているとき、貴女が白虎ではなくコハク≠セったからですよ。そうだったでしょう?」
私たちの創造主は当人以外もいる場で、しれっと、さらっと疑問の回答を言ってくれた。
「おーおー、天心、まるで覗いてたかのように言うねぇ」
「そんな趣味はありませんよ、玄武。私はただ、目の前にいる白虎の姿を見て、そうなる方法がただ一つだったからその方法を言ったまでです」
「ってことは、つまり――人間のときの姿でやっちゃえば、子供産めるってこと?」
「す、すざく〜」
身も蓋もない言いかたをされて、私は何だか恥ずかしくて仕方なくなってしまった。
「何も恥ずべきことじゃない、白虎。俺たちの子供が産まれるってことじゃないか」
隠れてしまいたい――そう思ったとき、ナオが私を後ろからそっと抱き上げてそう言った。
「ナ、……蒼、龍……」
「産まれるまで、ずっと傍にいてもいいかい? 白虎」
「え……でも、蒼龍――東は?」
「一番何にもない状態の西をほったらかしにして、蒼龍殿にくる?」
ナオの眼は、「肯定の返事しか聞かないぞ」と言っていた。
確かにナオの言うように、ずっと傍にいて欲しい。そりゃやっぱり不安だったから。これから生まれるという現実はなおさら怖気づいてしまうだろうから。
「それは――」
「まだ、無理だろう? だから、俺がそっちに行く」
「アツアツだねぇ、まったく」
玄武は私たちの様子に、冷やかすように笑って言った。
「いいさ、白虎。蒼龍に甘えとけ。しょっちゅう目の前横切られて見せ付けられるよりはましだからな。蒼龍不在の分は俺がフォローしとく」
『俺と幸からの祝いだ』
そんな懐かしい声が聞こえた気がした。
「ゲンゲン先輩……」
思わず口を出た懐かしい呼び名に、玄武は頷いて応えてくれた。
「あ……!」
そして、私は思い出した。
「白虎?」
「何だ何だ? 産まれるのか?」
「そんなわけないでしょう、玄武」
「エーッ、そうりゅーがいきなり抱き上げたりするからよぉッ! オネーサマッ、気分悪いの???」
突然の私の声に、皆慌てふためいて心配そうに私を覗き込んでくる。
でも、私はそれに気づくより前に、思い出したあることを叫んでいた。
「ゲンゲン先輩ッ! 私、お祝いもらってない!!」
そう! そう、そう!
ゲンゲン先輩、私が結婚したらお祝いにラスター彩のお皿! 作ってくれるって、言った!!
んでもって、子供が生まれたら生まれるたびにその子に、ラスター彩の指輪を作ってくれるって!
陶芸家ゲンゲン先輩の作るものは、ものすごく価値がある。こんな『気さくなおっさん』という風体でも、失われた古代の技法を再現できる唯一の陶芸家なんだから。その作品なんてどんなに小さなものでもとんでもない金額で、私なんかが買おうと思ってそう簡単に買えるものじゃない。
それを「お前みたいのでも結婚できたら、先輩後輩のよしみでプレゼントしてやるよ。いや、そんな日は一生こないかもしれないけどなぁ」と、半分はからかいながらだったけど、間違いなく約束したんだった。これは、ちゃんと守ってもらわにゃ絶対に損だ! 高級車1台分は下らないお祝い――それも、欲しかったもの――を、ポンとくれる人なんている? このチャンスを逃す手はないわけよ!
「……あ、あれ?」
ふと気づくと、息巻いた私を見たまま、皆固まっていた。
「……どしたの? 皆……」
冷たい視線でもなく、ただただ皆、固まっていた。
「……"コハク=c…」
溜息一つ吐き出して、ナオがゆっくりと抱き上げていた腕から降ろした。
「何? 何、何皆固まっちゃって〜。ヤダ、私なんかした? ね、ってばぁ〜。ゲンゲン先輩〜、アヤちゃ〜ん。もう、文君まで……」
言って、はた、と気づく。
「――って!! なななな、何ぃ? 何みんな、人型(もと)に戻ってんの??」
そして自分の姿を見れば、何故か自分までもが"コハク≠フ姿で……
「……ニャーこ……」
「おねーさまぁ……」
「……ニャー……」
固まっていた仲間たちは、次々に恨めしそうな声で、私に何かを訴えていて……
「な、な、な、なぁに……??」
それは、どうやら、私が彼らを人間のときの姿に戻してしまったのだと言いたいようで……
「……ナオぉ……??」
問うてみると、彼までもが溜息をつきながら頷いて……
「え……」
そ、そんなまさか……
思うけど、私に注がれる視線はそれを否定している。
「……ニャーこ……オマエぇ……」
「ヴ……」
ゲンゲン先輩、むちゃくちゃ恨めしそうに……
「オネーサマぁぁぁ……」
「あ……う……」
アヤちゃん、涙ちょちょぎれてるし……
「――ニャー……」
「あ……ぶ、文君〜」
どどど、どうしよう〜〜
あの天心=文君まで愕然としてるし。
私がやったのって、確実じゃん――!
「で、で、でもッ! 何でッ、どーしてこんなになっちゃったの??」
私はわけもわからず自分に責を問われているこの状況がたまらなかった。
「……しかたない。ニャーが不安だと言うんだから、ボク達も支えてあげようじゃないか」
溜息をつきながら文君が微笑う。
鶴の一声。またの名を模範解答という。
「あ……」
そうか。不安だったんだ、私。
文君の言葉に、ようやく不安だったのだと自覚できた。
「……そうだな」
「……そうよね」
ゲンゲン先輩とアヤちゃんは、私共々納得して頷いてくれた。
「…………」
ただひとり、不満げにしていたのはナオ。
「俺一人じゃ足りないんだ」
……どうも、拗ねているらしい。
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