琥珀の瞳

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― 天心 1―

 

 すべての初め、ここには何もなかった。ここにすべてのものを創り給うた天心をのぞいて他には何も。
 そこで天心は初めのものを創り給うた。
 ただ独りのせかいを支えてもらうために――ただ存在することしか出来ないその御身に希望を与えるために、天心は御自らを消し去ることができるものを初めに創り給うた。
 それが蒼龍。一つめの四神。


「天心、俺は天心を殺すためだけに存在するのか?」
「蒼龍、『俺』ではありませんよ。変な言葉を使わないで下さい」
「はぐらかすな! はぐらかすならずーっと『俺』って言ってやるからな」
 見上げる蒼い双眸。天心はその瞳から視線をそらせなかった。
「……そう、ですよ。その通りですよ、蒼龍」
 事実を告げ、表情が曇る。
(何故だろう)
 天心は胸が痛むのを感じていた。
 独りに、無に耐えられなくなるだろうから、彼は己に『終わり』という制限をつけたのだ。そうすれば少しは気が紛れると思ったから。自らの存在理由すらわからず、けれど何かをできる能力だけは持っていた彼が最初に考えたこと。そしてそれは思いのほか当たりだった。己に課した『制限』という創造物でしかない蒼龍にこう問われただけで、こんなにも雑多な感情に満たされ、潤されていたのだから。
「そうか。わかった」
 天心より遥かに未熟な姿であれど、唯一彼を滅ぼすことのできる蒼い瞳は、表情を曇らせた創造主とは対照的な表情で淡白に答えた。
「なら、お前を守るものも創ればいい。俺は天心を壊したくはない。けれど、お前がそれを望めばしなくてはならない。お前がそう創ったのだから。だから、そんな時お前を守るものがいれば俺は安心だ。俺より強い、お前を守るためだけのものがいれば。
 迷いがあるんだろう? 今、そんな表情かおをしているのも、俺にいつか殺してほしいと思いながらも俺にそれをさせるのがイヤだからだろう? 俺とずっと一緒にいたいんだろう?」
「蒼龍……」
「だから、その迷いを俺と戦わせればいい。お前を殺すためだけの俺。お前を守るためだけのもの。そしてお前を守るためだけのものは俺よりも強くあるように創れ。俺はお前を殺したくない。俺の迷いも一緒に混ぜて創れ」
「蒼龍……矛盾してますよ。あなたより強かったら、あなたの存在理由がなくなるじゃないですか」
 言いながらも、天心は自分を真っ直ぐに見上げる蒼龍を抱きしめた。頬に暖かいものが伝っていく。天心はこのとき初めて涙を知った。そして創造物が己に愛情を持っていること、自身さえもただの創造物だと思っていたものへ同じ気持ちを持っているのだとも……。



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