琥珀の瞳

page12 [ home | back ]


― 瞳の行方 ―

  

 あれから暫くして、天心が四神を召喚した。
 『人間』という小さな存在を住まわせる世界を創るようで、その説明のためだった。
「その瞳の色……」
 蒼龍は白虎を見とめるなり、驚いた表情で歩み寄る。挨拶も忘れ、白虎の細い肩を掴んで呆然として問うた。最初は何事かと、問題になっている双眸を見開いていた白虎だったが、一呼吸ついてから蒼龍に答えた。
「……天心から貰った色。『琥珀』という。美しい色だろう?」
 心底嬉しそうに。そして少し自慢気に白虎は微笑む。白い頬がうっすらと桃色に染まって、その微笑を一層美しく見せていた。
 しかし蒼龍は、その美しい表情を素直に堪能していられなかった。胸によぎる不安、それがあったからだ。
 天心に突き放されてからの白虎の氣が不安定なことは蒼龍も知っていた。そしてその理由を知っている彼は、天心の判断を喜ばしく思いながらも、苦しんでいる白虎を密かに心配をしていたのだ。
 しかしそれはつい最近解消された。白虎の氣が安定したからだ。けれど蒼龍はその理由を知る由もなく……。今ようやく、彼女の氣が元に戻った理由らしきものを見つけた。
 天心の色に染まる白虎の瞳――
 天心が彼女に何かをしたのは明白だった。
(まさか天心――)
 蒼龍の胸が波立ち始める。初めて創造主に反目したあの幼い日を思い出してしまう。少し氣を緩めてしまったら、あの時のように無様な涙をこぼしてしまいそうだった。
「……どうした? 蒼龍」
 突然肩を掴まれ、ものすごい形相の蒼龍に問われている白虎に彼の苦悩などわかるはずもなく、ただ、眉根を寄せることしかできない。
「…………」
 白虎の声に、蒼龍は彼女に見上げられていることに気付く。が、言葉が出ない。言いたいことは山ほどあれど、なんと訊いていいものか言葉が見つからない。
「蒼龍、どうした? 変な表情をしているぞ」
 問うてくる薄めだが柔らかそうな唇。その唇に、この細い肩に、首筋に……彼女の肌に天心が触れたのかもしれない。
 そう思った瞬間、蒼龍の腕は、白虎をきつく抱きしめていた。彼女をすべてのものから隠したかった。特に天心からは。
「……何を考えてるんですか、貴方は」
 突然、耳に溜息を吹きかけられた。妖艶に、耳にまとわりついたその声は愛しくて仕方がない者とよく似ていて。
「――――!!」
 声の主を肩越しに見やり、蒼龍は言葉を失った。
「天心がそんなことするわけないじゃないですか。貴方じゃあるまい」
 露骨に「呆れた」と声音に出して囁いたのは黒曜の瞳、漆黒の髪をもつ白虎。彼が今まさに腕に抱いているはずの、彼女。
「お・ば・か・さ・ん」
 黒い白虎は妖しく微笑みながら、固まってしまった蒼龍の耳に再び吐息を残すと踵を返した。そして三歩四歩と歩いたところでその姿を小さな四つ足の獣に変える。黒い毛並みが艶やかな獣は「ニー」と声をあげ、少し離れた場所から見守っていた主の下へ駆け寄るとその腕の中に飛び上がった。
「玄武、いいかげん他の真似ばかりしていないで自分の姿を決めたらどうですか」
 苦笑を漏らしながら黒い小動物を抱きとめた黄金色の創造主は、そう言いながらも微笑んで囁く。「でも、今のはなかなか面白かったですよ」と。
「ねぇねぇ、どうちてホントのことおちえちゃったのぉ? つまんないー」
 その脇で、創造主の衣の裾を引っ張って、頬を膨らませているのは朱色の髪が華やかな童女。天心は胸に抱いた仮の姿のままの玄武を肩に乗せると、不満たらたらな表情で見上げている朱雀を抱き上げてにっこりと微笑んで言った。
「だって、ここで誤解したままよりも、これからの彼なりのアプローチを見せてもらうほうが楽しいでしょう?」
「あ……」
 空気を抜いてもぷっくりとしている頬に両手をそえて、朱雀は主と蒼龍たちの間に視線を往復させる。
「さて、蒼龍……、これからも白虎は一筋縄では行きませんよ。何と言っても私の『琥珀』ですからね……」
 極上の微笑み二つが三つへと変わるまで、さほど時間はかからなかった。
 その中でもひときわ優しくいぢわるく微笑んだ天心の左耳で、純白の石が二つ、ほのかに輝いていた。



[ back ]

面白かった?
ポチッと応援ヨロシク

  


page12 [ home | novel index | novel top ] copyright(C)michiru.r 2001-2004. all rights resereved.